2016年7月2日(土曜日)~3日(日曜日)にかけて滋賀にて行われました。
会場は琵琶湖に隣接したピアザ淡海。夏の暑さの中で、琵琶湖から吹き抜ける風が覆ってとてもすがすがしい気分になるとても良い会場。
ボランティアの学生たちの爽やかな挨拶で会場まで誘導されました。どの学生さんも大きな声で挨拶されていて、とても微笑ましく思えました。
受付を仕切っているのがご年配の人も多かったので、代理店のスタッフかと思っていたら名札に大学名が。あっ、そういうことか。教授クラスの先生方もall PMHNで協力して行っている今年の学会。なので雰囲気もちょっと違いました。
参加者は900名を超えていたそうで、かなり多くの方が参加されていたようです。
【開会のあいさつ】
学術集会会長代行:田上美千佳(東京医科歯科大学)
学術集会会長がとある事情で辞任したこと、そこでの苦労。
それを語られたときに、学術集会会長という仕事がどれだけ大変なのか、よくわかりました。
私としてはとても面白かった学会だったので、ここまでも作り上げてこられた会長代行や企画委員の皆さんはとても努力されたのだなぁと感心しました。
中島みゆきの糸の曲を流して、「こころと身体と社会を紡ぐ精神保健看護」という学会テーマを説明している姿を見て、いい曲だなぁと思ったのと同時に、この大会テーマに沿った講演やワークショップがそういえば今回見当たらないなぁとも思いました。細かく見ていないせいなのかもしれませんが。
【理事会企画:論文投稿時の研究者ルール】
岡田佳詠(筑波大学)
前田樹海(東京有明医療大学)先生が、論文を投稿するということは「巨人の肩の上に立つ」ということと話していたという引用があった。巨人というのは過去の研究により得られた知識のデータベースなどを指すということだ。不正を1つすれば、データベース自体がゆがめられてしまうということだそうだ。
ちょっと頭で進撃の巨人を思い浮かべてしまっていたら、「巨人?巨人が何だった?」という感じで、「巨人の肩の上に立つ」の意味がよくわからないままになってしまった。
前田樹海先生をググってみると、この本があった。
※巨人についても書かれているようですし、この本わかりやすそうなので、あとでAmazon購入することとしました。
【基調講演:災害からの復興と心のケアー新たなパラダイムの予知―】
南裕子(高知県立大学学長)
ウキペディア情報では74歳になる南先生。阪神淡路大震災をきっかけに専門を精神看護から災害看護にシフトしたそう。喋り方や振る舞いなど含めて、話に引き込まれる。
『災害の発生はローカルでもグローバルな要因が根底にはある。』
その言葉がやけに心に残り、メモを書き留めていた。南先生のお話しの中で出てくる、自らのトラウマ体験、急性ストレス反応が生じていたことなどコミカルに話していただくなかで、災害看護への興味が強くなった。
『戦争と看護の発展:戦争・紛争の後に看護の新たな飛躍が起こる。苦しみの中から看護は成長する。』
クリミア戦争のナイチンゲールの活躍以降にも看護の発展したポイントが戦争中・戦争後に多いことから、そのようなことをお話ししていた。
苦しまなければ、看護は成長しないのである。
【ポスター閲覧】
だらだらとポスターを見て回った。発表者に質問したかったが、質問時間はワークショップの間の時間しかなかった。今回の学会、時間の割り当ても少し変な感じがする。
●看護職者を対象としたCBT研修プログラム化に向けた試行的研修の検討
CBT研修に参加した看護職13名に対して、インタビューガイドに基づく半構造化フォーカス・グループインタビューを3グループに実施したという質的研究。
研究協力者の概要をみるとCBTを実践する看護師の経験年数に偏りがあるのがわかる。
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精神看護経験年数(看護経験年数)
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CBT既習者
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1G
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約14年(約31年)
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0名
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2G
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約12年(約16年)
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0名
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3G
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約7年(約7年)
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4名
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(加藤沙弥佳ら:看護職者を対象としたCBT研修プログラム化に向けた試行的研修の検討より 一部改変)
こうしてみると、精神看護の経験が浅い看護師の方がCBTを勉強しやすいというのがわかる。経験が多くなるとあまり新しいことを勉強しなくなるのだろうか。
どのような研修プログラムだったのか知りたいところであった。
反復学習と潜在的カリキュラム要素を促進するための支援方法の考察があった。
『①CBT理論を看護実践に落とし込む経験の促進』
『②実践への動機づけ維持のための「ホームワーク提示」と、「スーパーバイズによる評価」、「実践報告を兼ねたフォローアップ研修」』
『③反復学習を支援するための環境調整』
(一部省略)
①については、経験を促進するためにどのような働きかけをするとよいのかが課題となる。
②については、スーパーバイズを看護職の中で機能させていくシステムを作っていく必要があるだろう。
③反復学習をしなければ、臨床場面で同僚などに弱化されてしまう。そういう意味で反復学習の中で、学習コミュニティーを作っていくことも必要となるだろう。
【一般演題:患者・看護師関係】
コンコーダンス・スキルに関する研究を幾つかみることがあった。
効果研究といえども、自記式尺度を多用しすぎなのではないかと思った。コンコーダンス・スキル界では重要度尺度・満足度尺度・動機づけ尺度などがあるようだが、それに加えてPANSS・DAI-10を基本で使用して、それに色々加えている。何の効果を研究しているのかよくわからなかった。というか患者さんこれだけの尺度をつけてもらっていることに違和感がある。
DAI‐10もレキシのある尺度なんですが、服薬の構えをみる尺度であります。つまりコンプライアンスはどうかをみる尺度であるので、アドヒアランスもしくはコンコーダンスといったステイトを捉えるような尺度の方がよさそうなのですが、現在開発されてはいないようです。
『コンコーダンス・スキル・マニュアル』は英国University of East AngliaのRichard Gray教授らが開発し,動機づけ面接と認知行動療法で用いられる技法をもとに構成されているとされているようです。(ただ日本語で書かれた書籍ではそのほとんどがブリーフセラピーについて記述されているように思えます。)
コンコーダンス・スキルの広がり方としては精神科看護師が主に実践しているようです。
【ワークショップ:統合失調症をもつ人達へのグループワークをやってみませんか-メタ認知トレーニングプログラムを活用して‐】
則包和也(弘前大学)
ワークショップ前に‘メタ認知トレーニング’と‘メタ認知療法’はどう違うのか?ちょっと疑問に思ったので調べてみました。
●「メタ認知トレーニング」と「メタ認知療法」の違い
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メタ認知トレーニング
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メタ認知療法
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開発者
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Steffen Moritz
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A・ウェルズ
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第一人者(日本)
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石垣琢磨(東京大学)
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熊野宏昭(早稲田大学) 今井正司(名古屋学芸大学),境泉洋(徳島大学)
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定義
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妄想を抱きやすい統合失調症の当事者が自らの認知バイアスに無理なく気づくことができる方法
(石垣琢磨:メタ認知トレーニング(MCT)の理論と実践)
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通常の認知をコントロールするメタ認知の内容を変える認知行動療法。
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メタ認知とは?
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「自分の思考に関する思考」
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認知に適用される認知
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内容
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8つの認知機能障害を介入対象としており、それぞれの介入は「モジュール」とよばれている。ノーマライゼーションと、妄想への対処法に関する心理教育と練習が行えるようデザインされており、認知行動療法的なホームワークによって学習の定着を図る構造になっている。
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自動思考は問題とは捉えず、心配、反芻、思考抑制などの思考プロセスがメタ認知的要因によってトップダウン(意識的)に選択、実行されることを問題とする。
病理的な思考プロセスとして、自己注目を拡張した概念のSREF(自己調節実行機能)モデルと、その産物であるCAS(認知注意症候群)が想定されている。
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適応疾患
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統合失調症
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不安症・うつ病
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メタ認知療法は用語が難しく理解しにくい。
メタ認知トレーニングはマニュアルがあって、集団で行うのを原則としていることや用語も平易であるので実施しやすい。
つまりメタ認知療法は習うのも難しい・実施も難しい。メタ認知トレーニングは習いやすく実施もしやすい(環境さえ整えば)。
メタ認知トレーニングは認知行動療法っぽい内容も入っているが、どちらかというと心理教育プログラムなのかなぁとも思います。
●ワークショップを参加してみメタ認知トレーニングの感想
メタ認知トレーニングはパワーポイントで画像を示しながら、3~10人のグループへ実施します。ワークショップでのデモンストレーションや演習はとても楽しかったです。
スライドには画像が表示されて、それを例に「慌てて判断すると間違うこともあるんだよ」「視野が狭くなっていると、逆に広げていく作業は大変なんだよ」「外見だけでは相手の考えていることを正確に判断できない」「記憶は間違えることが多い」「否定的な考えがあることを受け入れて自尊心と気分を高める方法を話し合う」という画像メタファーを展開していくようです。
「」内はモジュールのテーマで、このテーマに沿って利用者さん各自にソクラテス式質問法を用いながら、問題を答えさせていく、そして認知バイアスに関する知識を獲得することを体験しました。1モジュールあたり60分かけていくそうです。
オモシロさは十分にあります。こんなに面白い仕事はぜひやりたいなと提供する側としては思います。
ただ注意しなければいけないのは、これがクイズ番組の体験で終わらないか、ということです。正解かどうかにとらわれて、クイズ回答行動を強化しているだけではトレーニングにならないわけです。
発言を求められたときに、面白い解答をすると、みんなが面白がってくれる、という集団療法の場でとどまらずに、日常に生じるメタ認知に気づいて、メタ認知にて生じる問題をホームワークで取り組むようになると、とてもよい治療の場となるでしょう。
トレーニングですから、日常に般化させていくことも意識して実施していくよいんだろうなぁと思いました。
画像メタファーは私も研修なんかでアイスブレイク程度に行いますが、そこに時間をかけすぎている感もありましたが、演習のためかなぁと思っていましたが実際はどうなんでしょう。
もう少し知りたいなぁと思ったので、MCT-Jネットワーク(Mネット)に会員無料登録することにしました。登録するとマニュアルなど無償配布されるそうです。
http://www.mct-j.net/index.html
【一日目終了】
こうして一日目が終わりました。
学会参加するといつも疲弊感にみまわれるのですが、今回は疲れを感じなかったです。それはワークショップで嗅いだローズマリー・レモンのアロマのにおいのためなのか、質問もせずに静かに大会を傍聴しているだけだったのか、わかりませんでした。
滋賀の観光地をまわろうかと思いましたが、おいしそうなラーメン屋さんで食事を食べて滋賀のカリスマ美容師にカットしてもらい、大津パルコを散策して自由に過ごしていました。
【一般演題】
二日目の最初。一般演題に参加してきました。
『看護師が主導するうつ病への集団認知行動療法の効果検証』
田上博喜(宮崎大学)
ぜひ、聞いておきたかった演題だったので楽しみにして参加。
発表を聞いて・質問を幾つかしてみての感想。
・研究ちゃんとしているなぁ。ぜひRCTとか取り組んでほしい。
・九州認知行動療法研究会に参加したい気持ちになった(会員数はかなりいらっしゃるようです)。
・トレーニングを受けた看護師が実施している。どのぐらいのトレーニングをすれば、患者さんの役に立てるレベルになるか、課題。
・なぜ「看護師主導」でなければいけないのか、その研究目的の説明が弱い。日本の医師・心理士が行った集団認知行動療法の効果研究はいくつかあるわけだし。私もこの辺の言い回しについては、日常的に説明するのに苦労する点ではあるので、このあたりをスッキリさせるとよい。
先行研究のCBTプロトコルを参考に全6セッションに構造化してプログラムを作成したそう。
①心理教育、②考え方の特徴、③自動思考の検証1、④自動思考の検証2、⑤問題解決、⑥アクションプラン
各セッションごとにホームワークがある。
かなり普通の内容だし、そんなにプログラム自体特異的なところがあるわけでもない。
でも集団認知行動療法ってたいていこんな効果あげちゃったりするんだよな。不思議。
考察としてドロップアウト率の低さの要因を、日常的に接する看護師をファシリテーターとして参加させたこと、としていた。この肯定的な捉え方は、看護師が主導する根拠にもなると思うが、研究的に結果を出されるといいなぁとも思った。
※2つほど質問させていただいて、とても丁寧に答えてくださった田上さん、どうもありがとうございました。
【ポスター閲覧】
質的研究7例、量的研究5例、文献レビュー2例、実践報告5例
数えてみると、だいたいそのような内容となっていた。
ちょっとびっくりだったのが、「野菜・果物・魚の摂取がうつ病発症リスクを低減させる」という先行研究があるのだということ、それに続いて被災者の食生活と精神状態との関連を調べている研究である。その先行研究がどのような内容かわからないけど、研究の手順としても丁寧で、分析もしっかりしてあった。その視点からみたことなかったので、おもしろいなぁと思ってポスターの前にいた。
【ワークショップ:衝動制御困難な入院患者へのストレングスモデルを活用した看護の取り組み】
司会:片岡三佳(三重大学)
笑抱の会については
https://www.facebook.com/%E7%AC%91%E6%8A%B1%E3%81%AE%E4%BC%9A-448896991827338/
を参照してください。
看護職者が笑顔と抱擁の心を持つことが患者さんやご家族、自身のリカバリーにつながるという思いがあるそうです。
明るく楽しい笑いに囲まれたワークショップでした。
芸能人で喩えると、鈴木奈々さんのように明るくも難しい雰囲気のない穏やかなそして、ざわつくワークショップです。鈴木奈々さんの雰囲気や芸風は好きなので、居心地は良かったです。
ストレングスモデルを学べるものかと思って参加しましたが、ストレングスモデルについて説明されることがなくって少し残念でした。
片岡先生が少しお話ししていたのは、
・ストレングスモデルは、つまづくこともあるが捉え方を変えることで看護師としてモチベーションを維持する。
・悪い行動を違う見方に捉えてアセスメントをする。
ということだそうです。
とある病院の院長・スタッフが事例を提供してくださって、各グループであーだこーだのプランを立てていきました。
スタッフの事例を聞く限り、そもそもスタッフがストレングス・マインドがなく、問題リスク回避に陥ってしまているなぁと思ったり、ストレングスを知らない参加者の意見をいっぱいもらって、その病院の院長・スタッフはケアに活かされるのか・役に立つのだろうかなど疑問にはなりました。
参加者の中に、「暴力行動が少なくなって来たら、鉛筆の使用を考えたらいいんじゃないですか?行動療法的に。」とおっしゃっている方がいましたが、どのあたりが行動療法なのかわからなかったです。また参加者の中に、「ジオラマを作らせるといいよね。でもこのジオラマを壊す行動が増えるかもしれない。これは負の強化になるからだめだよね。」とおっしゃっている方もいました。文脈的にこれは正の強化です。(個人情報保護の観点から、発言内容を一部改変しています)
精神看護を専門にする看護師の中には、行動療法の誤った知識がある人はいるんだなぁと思いました。
事例を聞くと認知行動療法のアセスメントを始めてしまうのは、自分の癖なんだなぁとつくづく感じます。
ストレングスモデルというのは、恐らくですが、アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)における、価値ある行動なのではないかと、推測しています。つまり、患者の価値に沿った正の強化を増やしましょうということなのではないかと思っています。そういう視点からすると、『リカバリープラン』で立てられる目標が間違っている可能性があります。
『リカバリープラン』も行動活性化のようなものだと思いますので、ストレングスつまり価値に沿った強化子を得られる活動を挙げていくのがポイントなんじゃないかと思いました。
でも私の考えが間違っている可能性が高いので、ストレングスモデルを勉強することにします。
(今、『ストレングスモデル実践活用術:萱間真美著』を読み始めたところです。ちょっと読んだ段階ですが、結構面白いです。日本の精神医療の問題点みたいなところも記述してあって、その上で必要なことも記載されています)
こうして2日間の学会を終えました。
学会員になっての初参加でしたが、二日通して得られた自分の課題を色々と発見しました。
臨床のやる気も出てきたので、頑張っていこうと思いました。
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